第一回入賞作品
4/6ページ目

弾突賞
桜井心さん
明日(あす)の花
[戦後(ややファンタジー]


「もし生きてても、お前の前には現れないよ、一生」


 そう言って戦地を共に過ごした親友は火の中へ飛び込んで行った。
 死ぬつもりはない、けど……生きてても戻らない。

 その言葉は彼の優しさだった。
 戻ってくる約束をしたら、それが果たせなかった時に俺が傷つくから。

 だから最初から永遠のお別れを選んだ。


 戦争が終わった今、彼の安否はわからない。
 本当に戻ってこなかった。

 あいつのことだ、生きているとは思う。
 でもそれなら少しくらいヒントをくれてもいいじゃないか。姿を現さなくても、なんらかの形で大丈夫と伝えてくれても。
 それが出来ないということは……

 マイナスな考えはよそう。
 ただ曖昧な、淡い期待を抱くだけ。

 これからずっとそうして生きていくだけ。



‐‐‐‐


「統領さま」


 十年後、日本国の頭となった俺のもとに幼い少女が駆け寄ってきた。
 まだ八、九ほどの幼女。
 警護の隙を潜り抜け走ってくる。

 普通なら身を案じて逃げるのだが

 俺はその時、少女がこちらへ向かってくる風景をスローモーション再生でぼんやりと見ていた。

 会いたいと願っていた男によく似た小さな女の子。


「プレゼント」


 差し出されたのは一輪の、白いあやめの花。
 無言でそれを受け取ると、少女はニコッと笑い再び走り出した。
 警備が騒いで少女を捕まえようとするが、彼女は器用にその間を駆け抜けていく。

 まるで戦場から抜け出してきたよう。


 白は平和の象徴、この日本を白に染めてやると。
 あやめは便りの花言葉、良い便りを届ける使者。

 護衛に花を奪われそうになったが、しゃがみ込んでそれを離さなかった。
 蹲り、唇を噛んで涙を堪える。


 周りが騒いでいるのがわかる。

 伝わる、
 統領が蹲っただけで騒ぎになるこの平和な状況。


 どこにいるのだろう。この付近で高みの見物か、はたまた自宅のテレビの前か。

 情けない俺を見て笑っているに違いない。やがて役目を終えて戻ってきた少女を優しく抱き上げる。
 その顔はきっと、あの頃と何もかわっていないのだろう。



 空を見上げる、

 白い鳥が空を翔けた。


 平和の象徴
 二度と繰り返さない戦争の傷跡と、
 二度と戻らない、戦火を共にした仲間たちとの時間。


 明日もまた、空を行く。

第一回結果発表に戻る
[指定ページを開く]

←前n 次n→ 

<<重要なお知らせ>>

@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
@peps!・Chip!!は、2024年5月末をもってサービスを終了させていただきます。
詳しくは
@peps!サービス終了のお知らせ
Chip!!サービス終了のお知らせ
をご確認ください。




w友達に教えるw
[ホムペ作成][新着記事]
[編集]

無料ホームページ作成は@peps!
無料ホムペ素材も超充実ァ