第一回入賞作品
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名駅賞
ロイヤルさん
真冬の果実
[恋愛]


12月の雨の日、私は近所のスーパーにいた。
――果物食べたいな、果物。
野菜のコーナーに行く。
「うーん」
あるのは、リンゴとミカンとバナナ。
――缶詰めにしよう。
桃が食べたかった。探していると、山積みの缶詰めの前に、マッシュルームの小さな缶を持った、男の子がいた。目が合う。なんてこったい、イケメンじゃないか。そういえば、紫呉に借りた地理のノートに、イエメンのイケメンって書いてたなぁ。
「清水先輩?」
「え?」
いえめ、……イケメンが話しかけてきた!
「清水先輩じゃないですか?ふっ中の!」
「誰?」
色白で、くせっ毛の黒髪。黒縁の洒落たメガネ。ふ中にこんな人いたっけ。
「八塚です。美術部の」
「あっ!」
思い出した。1つ下の八塚 秋都。たしか、油絵が上手だった。
「お久しぶりですね。高校はどうですか?」
「ああ、うん。まぁ楽しいかなってかんじで。八塚、くん。ってさ、なんか変わったね」
「そうですか?」
八塚が笑う。わー、なんか可愛いなぁ。
「今日は、何をお求めですか?」
「果物の、缶詰め……」
店員か、こいつは。
「果物ですか。あ、先輩野菜とか果物とか好きでしたもんね」
「そうだねぇ」
なんで、知ってるんだ。
「桃がありますよ、桃。あ、さくらんぼも旨そう」
「さくらんぼ。あ」
思い出した。6月の初めに、誰かが何か言ってたような。美術室で、中総体の旗をみんなで作っているとき。

――俺、6月生まれなんです。6月の3日。さくらんぼの季節ですよ。
――でも、さくらんぼって、食べ過ぎたらお腹痛くなりますよねー。
――え、梶ちゃんさくらんぼ嫌い?あっらー。ちなみに俺は大好きさ。

「八塚くんって、6月生まれ?」
「え?はい、そうですよ」
「言ってたよね、美術室で。さくらんぼがなんたら〜って」
「え、あ。はい」
心なしか、八塚の顔が赤くなる。
「せ、先輩はいつですか?」
「ん?」
「その、誕生日」
「ああ、私は5月だよ。八塚くんの1ヶ月前だね」
「5月。苺の季節ですね」
「八塚くん、実は果物大好きでしょ」
「はい」
私は、黄桃と白桃の缶詰めを一つずつ、かごに入れた。
会計を済ませ、外に出る。八塚も、一緒に。
傘をさす。
「あ……」
雪だった。
「先輩、雪にも傘をさすんですか」
「いや、私はささない派」
「派閥あるんですか」
八塚がまた笑う。
「先輩、一緒帰りません?」
「帰る」
白い白い雪が降るなか、赤い果実の季節に生まれた私達は、頬を朱に染め、街を歩く。

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