1/7ページ目 R★シックスティーン 83pt. トーコさん� [お馬鹿な感じのラブコメ] 思えば。 忙しいのに月に一回は必ずどこかへ遊びに連れて行ってくれたり、友達と海に行くって話をしたら断固反対されたり。はたまた勝手にメガネを外され……違う、これは友達の話だった。 とにかく、あのヒトの本意は様々な箇所で見え隠れしていた訳だ。言われるまで、あたしが気付かなかっただけで。 ◇ ふっと眠りから浮上する。オレンジ色のカーテンから零れ出る太陽のひかりと、横に倒れたウサギのぬいぐるみ。エアコンのタイマーが切れたのか空気がむあっとしていて暑苦しい。部活から帰ってきてシャワー浴びてご飯食べて、部屋に戻ってきたのが午後二時過ぎだった。そっか、あたし三時間近くも寝てたんだ。 少し首を回すと、あたしの勉強机を勝手に使ってる幼馴染みが一人。規則正しいペンの擦れる音からして丸付けかな。そういやこの前、あたしの他にも家庭教師のバイト始めたとか言ってたっけ。 桐ちゃんのくせに。 ベッドに寝そべったまま後姿を眺めていると、ふいに桐ちゃんが振り返った。 「おはよ里奈」 「もー時間?」 とっくに家庭教師の時間が来てるのは分かってる。汗でべたべたなのは気になるし暑いんだけど、でも起き上がる気にはなれないから不思議なところだ。 「時間。一時間十分も起こさないであげたんだから感謝して欲しいな」 「男テニのマネさんは疲れてるんですけどー。じゅーろくの誕生日くらいサービスして寝かせてよ」 「駄目。里奈のご両親に怒られるのは俺なんだから」 桐ちゃんはそう言ってるものの、別に一時間十分くらいサボったって大丈夫。パパは仕事で帰りが遅いしママは四時――ちょうど桐ちゃんが来るのと入れ替わりにパートに出かける。桐ちゃんが自己申告しない限りバレやしない。 あたしはだるい腕を持ち上げると、無理やり体を起こしてベッドに座った。頭がまだぼーっとしてる。 「ほら起きて」 「はぁい」 「この問題解いて」 「はぁい」 丸付け途中の小テストを持った桐ちゃんとバトンタッチ。くぼみの残る椅子に腰掛けて、指示された通りに問題を解いていく。一学期の復習で簡単な因数分解だ。このくらいなら問題を解き慣れた手が勝手に動いてくれる。まさに機械作業だ。 「これ判子押して」 「はぁい」 ハンコがない、と思ったら良い具合に桐ちゃんが渡してくれた。印鑑持って朱肉つけて、さあ押そう、って時に気付いた。 「……桐ちゃん桐ちゃん、ヘンな書類交ざってるよー」 くすんだ赤の用紙にはバッチリ『婚姻届』の三文字。これをヘンと言わずに何と言おう。何気にあたしが書かなきゃいけないところ以外ぜぇんぶ埋まってるのが笑える。ビバ現実逃避。 「これのどこが変な書類なの? 十秒以内に五十字程度で説明してもらおうかな、もちろん出来なかったら判子押すんだよ」 あたし、もう一度まじまじとソレを見つめる。証人欄も書かれてて同意書まであるってことは……親たちもグルか。ついに娘の世話も放り出してまだ二十一の桐ちゃんに押し付けたくなったわけだ。桐ちゃんのお家がお金持ちなのに目をつけて、彼女がいないうちにってこと? 「……もーいっかい寝ちゃダメ?」 「こら、現実逃避しない」 「桐ちゃんのほっぺ抓って良い?」 「夢じゃないよ。里奈がどうしても、桐ちゃんお願いーって言うなら一生覚めない夢ってことにしてあげても良いけど」 「そっか」 「そうだよ」 夢オチにもしてくれない。 あたしはとりあえずハンコを元に戻すと、婚姻届を裏返しにして上からドサドサ物を乗せた。ノートに教科書に問題集、幸い夏休みで全部持ち帰ってたから蓋をするのには困らなかった。ほら言うでしょ? 臭いものには何とやらって。 すっかり婚姻届が見えなくなったと同時、椅子でくるんと回って桐ちゃんと向き合う。あたしの妨害こそしなかったものの、不機嫌であることは目に見えて明らかだ。 「ええと、どこから突っ込めば良い? オツキアイすっ飛ばして婚姻届にサインさせようとする行為は有りなのか、とか?」 普通、段取りってもんがあるだろう。お見合いして一年くらい付き合ってプロポーズして、でまた一年くらい婚約期間があって入籍とか結婚式とか。 「何を今更。約十七年の付き合いなんだし」 「だよねえ。時になぜ十七年?」 何度も言うけどあたし、十六歳。 「里奈ママが妊娠した頃から」 「なるほど」 ピッとエアコンをつけながら考えた。 じゃーあたしの意識がある時点から数えて十六年なのか。確かにこんだけ長い付き合いなら今更なのかもしれない、って騙されちゃダメ自分! とにかく今は頭を冷やさなきゃ! 2ページ目へ [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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