第四回入賞作品
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メビウスの輪 9pt.


閃光広里さん�
[恋愛]

 とある放課後、登下校に通る河川敷に差し掛かった時、特に何も考えずに芝生の上に腰を下ろす。

「ふぅ……」

 今日の疲れをため息に乗せて吐き出す。
 そしてそのまま仰向けに倒れ込む。

「秀一?」

 不意に、上から覗き込むように見つめる先輩が視界に入る。

「清美先輩……どうしたんですか?」
「ふふっ、秀一がここに居たから」

 微笑む先輩に視線を少しずらす。

「隣、いい?」
「いいですよ」

 僕の許可をもらい、右隣に腰を下ろし、同じように寝転がる。

「……そう言えばさ、私達が出会った場所もここだったよね」
「そうですね、あれは確か……小学生の時でしたね」

 小学校低学年の時、僕はイジメにより、ランドセルの中身をここの河川敷でぶちまけられ、泣きながら荷物を拾っていた時の事。
 時期は二月、雪がまだ降っていた。

『くっ……うっ』

 悔しくて、自分の非力さに怒りを覚え、イジメてきた奴を恨んでた。
 涙で視界がぐちゃぐちゃの中、必死に延び放題の雑草の中を探していた。

『さ、さぶい……うっ』

 自分の手のひらを見ると、さぶさで赤くかじかみ、震え、泥だらけだった。
 そんな時に彼女、橘清美先輩と出会った。

『どうしたの?』
『ふ、ふふふでばこが……』
『筆箱が、どうしたの?』

 声も震えていた。

『見つからないの』
『そう、私も探すよ』
『えっ……』
『大丈夫、すぐに見つかるよ』

 ニコッと微笑む先輩に僕は大粒の涙を流していた。
 数分探し、先輩が見つけてくれた。

『あ、ありがとう……』
『よかったね』
『うん……あの』
『?』
『名前……なんて言うの?』
『私? 私は橘清美、三年生だよ、君は?』
『ぼ、僕は川原秀一……に、二年生』
『川原君ね、お家まで送るよ?』
『うん、ありがとう……』

 それからというもの、昼休みになると先輩は毎日のように僕のクラスにやって来て一緒に過ごしてくれた。
 クラスメイトの間で、変な噂も流れたけど、先輩は特に気に止める事はなかった。
 そして、月日は流れ、先輩が小学校を卒業した日、先輩は僕を河川敷に連れてきてくれた。

『どうしたの、橘さん』
『……あのね、秀一君』
『?』
『私……卒業しちゃった』
『……うん』
『…………』

 しばし沈黙。
 なんとなく先輩を見ると、少し顔が赤かった。

『そ、そうだ』

 そう言うと、おもむろにカバンからプリントとハサミを取り出し、プリントを細長く切る。

『ここに一枚の紙切れがあります』
『うん』
『で、この紙切れの端通しをノリでくっつけます』
『うん』

 カバンからノリを取り出し、端を接着し、一つの輪を作る先輩。

『で、鉛筆で紙の中央にまっすぐ線をひく』

 輪の内側の面の中央に鉛筆で一本の線をひく。
 そして同じように外側の面も中央に一本の線をひく。

『この二本の線は一つにならないよね』
『うん……』
『でもね……』

 そう言って、再び細長い紙切れを作り、今度は一回ねじってノリをつけた。

『こんなねじれた輪ができたよね』
『うん』
『そして……鉛筆で……』

 そして、中央に線を加えていく。
 一回で外、内側の面を一本の線が通った輪になった。

『どう? 凄いでしょ』
『うん、どうして? 凄いなぁ』
『答えは秀一君が中学生になったらね』

 けど、中学生になると、その輪の事を忘れていた。
「秀一?」
「あ、なんでもないです」

 我に返った僕は起き上がり、プリントを細長く切り、ねじれた輪を作る。

「秀一……」

 先輩も身体を起こす。

「メビウスの輪……ですよね」
「うん……」
「本来、二つの線は交わらない、どんなに頑張っても」
「うん」
「僕達……みたいですね、本来は他人同士だったんですし」
「……そうだね」
「でも、こうやってねじれば……」

 シャーペンでねじれた輪に線をひく。

「線は一つに重なる」
「うん……秀一、覚えてくれてたの?」
「いえ、今思いだしました」
「そっ……」
「先輩」
「?」

 先輩の目をまっすぐに見つめる。

「先輩はもしかして、僕にこの輪を教えてくれたのは……」
「うん……私の線と秀一の線が一つになれば……って思って……」
「僕は……いいですよ、一つの線になっても」
「えっ」
「僕は、先輩の事が好きです、前からずっと好きでした」
「秀一……私も、あなたの事が好きよ」
「先輩……くくっ」
「ふふっ」

 なぜか二人して笑ってしまった。

「両想い、だったんですね」
「そうだね、でもね、メビウスの輪にはまだ秘密があるんだよ?」
「えっ?」
「ハサミ、ある?」
「あ、はい」

 ハサミを取り出し、メビウスの輪を持った先輩に渡す。

「本来、普通の輪を中央から切っても輪が二つになるだけだけど……メビウスの輪を中央から切ると……」

 僕がひいた線にそって、ハサミで切っていく。
 切り終わると二つの輪はお互いクロスしていた。

「お互いの輪がくっついてる……」
「今の私達みたいだね」
「はい……そうですね」

 恥ずかしくなり、一瞬だけ下を向く。
 先輩も顔を赤く染めていた。

「これからも、私の側に居てくれる?」
「居ます……ずっと先輩の側に居ます。このメビウスの輪のように、離れたりなんてしません」
「うん」

 そして、僕から先輩の顔に近づき、唇を重ねた。

☆END☆

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